1.はじめに

海水魚飼育というと塩水を扱うということもあり難しいイメージを持たれがちですが、実はとても気軽に始めることのできる趣味です。

一部のお店やネットでは「大型水槽」「高額器材」の用意を必須としてお話をする方もいらっしゃいますが、

「すぐに海水魚(カクレクマノミなど)を飼いたい!」

と思った方にとっては全く必要ありません。

おそらく「大型」「高額」を唱えらえる方のお気持ちは以下のようなものと思われます。

「飼い始めてすぐにもっと魚を増やしたくなった!」

「サンゴを飼いたくなった!」

「○○ヶ月で水槽を大きくした!」

「だから初めに買ったものが無駄になった!」

「初めから良い物を買っていれば結果的に割安になった!」

このように水槽をサイズアップしてサンゴ飼育を始められる方がいることも事実です(私もそうでした)。
ですが全員がそうなるわけではなく、ましてや未経験者の方へ「大型」「高額」を提示してスタートのハードルを上げる必要はないのでは?と考えています(運転免許を取る前の学生に「車乗るなら高級外車!どうせ欲しくなる!」と言うようなイメージ・・・。初めは中古の軽でも十分です)。

設置できるスペースも水槽に掛ける予算も人それぞれです。
負担が少なく持続可能な範囲でスタートできるようサポートすることが、一番大切なのではないかと感じています。

この記事では海水魚だけでなく観賞魚を全く飼育したことのない初心者の方でも失敗せず、出費も最小限に抑えてスタートできるよう解説していきます。

2.用意するものとその価格

海水魚飼育で必要不可欠なもの

・ガラス水槽/1,700円~

▶「30cm規格(30×18×24cm)」と呼ばれるサイズの水槽で十分飼育可能です。
▶置き場に余裕のある方は、もう少し大きな「30cmキューブ(30×30×30cm)」や「60cm規格(60×30×36cm)」で始めるのがおすすめです。


・ヒーター/1,700円~

▶水温が25℃以下になる時期に使います。水温を一定まで上げる役割を担っていて、安価なサーモ内蔵タイプ(水温固定)とサーモ別売りタイプ(温度可変)があります。
▶「30cm規格(約11L)」=50w、「30cmキューブ(約24L)」=100w、「60cm規格(約59L)」=150w以上のものが必要です。


・ろ過装置(外掛けフィルター)/1,000円~

▶ろ過バクテリアを定着させて、魚のフンなどを分解することで飼育水をきれいに保つ役割を持っています。
▶ろ過装置は飼育する魚の数や大きさに左右されますが、「30cm規格」でカクレクマノミ(3cm前後)を2、3匹飼う程度であれば外掛けフィルターで十分です。
▶更に多くの魚を買う場合は、水槽のサイズを上げるか外部フィルターなどの強力なろ過装置を用意します。
▶水量や魚の数に合わせて余裕を持ったろ過装置を選ぶと飼育がとても簡単になります。


・人工海水の素(50~100L程度作れるもの)/800円~

▶水道水に溶かすことで海水魚の飼育水が作れる塩を「人工海水」と呼びます。食塩とは異なる成分で出来ていて、ただの食塩では代用できません。
▶海水魚だけを飼育するのであれば、市販されている一番安い人工海水で問題ありません。水換えの分も想定して50L以上作れる量を用意します。


・比重計/1,000円~

▶塩分濃度の計測に使用します。
▶海水魚に適した比重は「1.023」とされているので、海水を作る時はこの数字になるよう水道水と人工海水を混ぜ合わせます。


以上、合計6,200円~

あれば海水魚飼育が簡単になるもの

・ライブロック or 養殖クラフトロック(1kg~2.5kg程度)/2,000円~

▶水の浄化を行うバクテリアが住み着いた石のことで、初めて水槽を設置する時には必須と言えるほど有用なものです。
▶「ライブロック」とは、海から採取されたもので天然のろ過バクテリアが付着しています。しかし魚を襲うカニやシャコ・有害な藻類も一緒に水槽に入れてしまうリスクもあり、初心者の方がこの良し悪しを見分けるのは少々難しいです。
「養殖クラフトロック」とは、有害生物を排除した水槽内で養殖された「人工のライブロック」です。サンゴが綺麗に発色・成長する環境下で90日以上ろ過バクテリアを定着させています。


・サンゴ砂 or ライブサンド(1kg前後)/500円~

▶水槽の底に敷いて使用します。海水のpHは8.0~8.4の弱アルカリ性で、サンゴ砂を敷くことでpHを安定させる効果もあります。
▶「ライブサンド」とは、海や水槽内でバクテリアを定着させた「サンゴ砂」などを指します。「クラフトロック」などと合わせることで水の浄化を助け、水槽設置後の早い時期から海水魚の飼育をスタートできます。


・プロテインスキマー(エアリフト式)/5,000円~

▶「プロテインスキマー」とは、泡の力を使って水槽内のタンパク質汚れを除去する装置です。ろ過装置の負担を軽減するだけでなく、水槽内に酸素を供給することでろ過バクテリアの働きを活性化させます。
▶小型水槽の場合は高水温対策のためにエアリフト式の「小型プロテインスキマー airLi(エアリ)」がおすすめです。


・LED照明/1,600円~

▶直射日光の当たらない明るい所へ水槽を設置すれば、初めから無理に購入する必要はありません。しかしせっかく海水魚を飼育するなら観賞を最大限楽しむために後々の設置をおすすめします。
▶淡水魚向けに販売されている白色のLED照明でも問題ありませんが、海水魚本来の体色を観察するには青色の入ったものが良いでしょう。
▶サンゴやイソギンチャクを飼育するためには、数千円から数万円程度のLEDライトが必要になることもあります。


・クーラー(ファンとの併用も可)/9,500円~

▶水温が25℃以上になる時期、主に夏場に使います。水温を一定まで下げる役割を担っていて、安価なペルチェ式と冷却能力に優れたチラー式があります。
▶ペルチェ式とは、クーラー内に設けられた金属から金属へと熱の移動を行うことで水温を下げるもので、本体サイズはとても小さく稼働音も抑えらえています。価格も数千円~とクーラーとしては安価で小型水槽向きと言えますが、外気温に左右されやすくエアコンとの併用が必要になる場合もあります。
▶チラー式とは、主にフロンガスを利用した気化熱で水温を下げるもので、本体サイズと稼働音は大きいですが冷却能力も強力です。価格は数万円~と高価なので60×30×36cm以上の中~大型水槽向きと言えますが、ペルチェ式では冷やせないシチュエーションにも対応します。
▶次に紹介する冷却ファンと併用して冷却効果を上げることも可能ですが、小型水槽の場合は水の蒸発による比重の急変を避けるためにクーラー単体の使用をおすすめします。


・冷却ファン/2,000円~

▶クーラーに比べて低コストで導入でき、設置が簡単です。気化熱によって水温を下げるため、水槽内の水が蒸発することもあってあまり海水水槽向きとは言えません。
▶冷却ファンを使用する場合は、小まめに足し水をするか自動給水装置などを設置して比重の変化に気を付ける必要があります。


以上、合計20,600円~

3.飼育環境のセッティング

Ⅰ.使用器材の準備

▶ガラス水槽は一度水道水で洗い流してから使用します。
▶サンゴ砂はほとんどが未洗浄で販売されているため、お米を研ぐようにして濁りが取れるまで水道水で洗います。
▶簡単な海水魚飼育の場合、6個口の電源タップがあれば十分なので予め用意します。今回のセッティング例では「ろ過装置」「ヒーター」「プロテインスキマー」の3口分を使用します。


Ⅱ.サンゴ砂を入れる

▶今回は約1cmの厚みを持たせるために0.7kgのサンゴ砂を敷きます(ここではライブサンド 0.7kgを使用)。


Ⅲ.ライブロックを入れる

▶ろ過バクテリアがしっかりと定着したライブロックを0.7~1.5kgレイアウトします(ここではクラフトロック 0.7kgを使用)。
▶レイアウトのポイントは団子状の一塊にせず、通水性を確保するためにアーチ状にして組みます。フンなどの汚れが溜まりにくくなり、海水魚の隠れ家を作ることができます。
▶ライブロックは崩れないように少し押し付けるようにして石同士を噛み合わせながらレイアウトします。


Ⅳ.ヒーターを設置する

▶水槽の目立たないところへ設置します。
▶空焚きを防ぐため完全に水没させてからコンセントを入れます。


Ⅴ.ろ過装置を設置する

▶レイアウトの邪魔にならない位置にろ過装置を設置します。
▶外掛けフィルターはろ材(白い綿状の板)を変えたり、別のろ材(セラミックなどのリング)を追加するとろ過能力を上げることができます。


Ⅵ.人工海水を作る

▶一晩汲み置きしてカルキを抜いた水もしくはカルキ抜き剤を溶かした水道水を用意します。カルキ抜きはアクアリウムショップや100円ショップにも売っています。
▶初めは少量から人工海水の素を溶かしていき、比重計が「1.023」を指すように調整します。
▶比重計に気泡が付くと数値が狂ってしまうため、水中でしっかりと振ってから数値を確認します。


Ⅶ.人工海水を入れる

▶サンゴ砂を巻き上げないようにビニール袋などを敷いてから人工海水を注ぎ入れます。
▶外掛けフィルター(ろ過装置)の電源を入れると水槽の水位が下がるので、下がった分の人工海水を足し入れます。
▶水槽のフチから1~1.5cm程度のところまで人工海水が入ったら、マスキングテープなどで水位をマークします。水の蒸発したらこのマークを目印にして簡単に足し水ができます。
▶通常はここから2~4週間はろ過装置に水を循環させてろ過バクテリアを繁殖させますが、天然ライブロックや上質な人工ライブロックを使用した場合は即日生体を入れることが可能な場合もあります。


■参考動画

立ち上げ時にろ過バクテリア材を使用した場合、どれくらいから海水魚を飼育できるか数値化した動画です。


Ⅷ.海水魚をお迎えする

▶お店で購入した海水魚はすぐに水槽に入れず「温度合わせ」と「水合わせ」を行います。
▶温度合わせとは、海水魚の入った袋を水槽に浮かべて30分ほど待ち、水槽内と袋内の水温差を無くす作業を指します。外との寒暖差が激しい季節や通販で購入した際には特に慎重に行う必要があります。
▶水合わせとは、水槽内の海水と袋内の海水を20~30分程度かけて徐々に混ぜ合わせ、急激な水質の変化によるストレスを避けるための作業を指します。海水魚の場合は20~30分で約2倍、エビなどの甲殻類の場合は30~45分で約3倍に混ぜ合わせます(袋の水が多い時は、魚のサイズ1cmあたりに約100mlを残して捨てる)。
▶エアチューブを使うと合わせがとても簡単で正確に行えます。
①袋から海水魚を容器に移して水槽よりも低い位置に置きます。
②エアチューブの片方を水槽内に挿し込み、もう片方を口で少し吸うとサイフォンの原理でエアチューブ内に水が流れ込みます。
③海水魚を移した容器に②の水を点滴の要領で垂らします。エアチューブの先を軽く結んで量を調整します。
▶水合わせが終わったら海水魚を水槽へ移します。お店の水には魚用の薬が使われていることがあるため、網などを使って海水魚のみを水槽へ入れます。

エアチューブを挿し込む
点滴の要領で垂らす
薬が入っていなければ水と一緒に

4.海水魚水槽のメンテナンス

Ⅰ.毎日やること

▶エサやり・・・食べ残しが出ないように1日に1~2回行います。今回立ち上げた水槽と同じ程度の環境であれば、1回あたり耳かき1杯程度で十分です。
▶足し水・・・水分が蒸発したら必ずカルキ抜きした真水を追加します。「Ⅶ.人工海水を入れる」で貼っておいたマスキングテープを目印にします。
▶健康チェック・・・海水魚の健康状態を観察します。痩せている個体は目の後ろにある背中の肉付きが悪くなっています。又、痩せることによって病気にかかりやすくなるため、その場合はエサの量や種類を見直す必要もあります。

30cm規格(約11L)に2~3cmの魚が3匹

Ⅱ.毎週やること

▶水換え・・・全水量の1/3程度を新しい人工海水と交換します。この時、新しい人工海水の水温は水槽と同程度になるよう調整するのが望ましいです。
▶フィルター掃除・・・ろ過装置のフィルター(ろ材等)が汚れていたら、水換えで出た捨て水を使って軽くゆすぎます。あまりにも汚れがひどい場合は交換しますが、フィルター(ろ材等)が複数ある場合は一度に全てを取り換えず期間を空けて交換します。

5.海水魚の飼い方動画公開中!